『天のろくろ』アーシュラ・K. ル=グウィン

『天のろくろ』アーシュラ・K. ル=グウィン

夢を見ることによって現実改変ができることに気づいた男がその能力に畏れをいだき、様々なトラブルに巻き込まれるというプロット。

この小説以前にも以後にも多くの同様の物語が生み出されている。まさにあの手この手とあるのだが、私が最も感心したのはイーガンの「宇宙消失」だった。夢や無意識によって現実がみるみる形態を変えていくというダイナミックなシーンはどちらにもある。

しかし、この小説の読みどころは、そうした派手な演出よりも主人公の静かなたたずまいではないか。ル=グウィンの主人公はどれも同じく、内面の葛藤を抱えており、それを決して外部に責任を探すことをしない。そして彼に関わる者はいずれも反発しつつも惹かれていく。

どこかにル=グウィンの小説作法として、先ず主人公の外観を想像する、と書いてあった。彼女のいずれの小説でもこの静かな、悩み多き、かつ強き者の姿を読むことができる。それが読者としての最大の歓びであろう。