『風の十二方位』アーシュラ・K・ル・グィン
ル・グィンの傑作長編「闇の左手」「所有せざる人々」「ゲド戦記」のサイドストーリーを含む短編集。これらのファンにとっては嬉しい一冊である。「冬の王」が「闇の左手」、「革命前夜」が「所有せざる人々」、「開放の呪文」「名前の掟」が「ゲド戦記」にそれぞれ対応した作品である。
「冬の王」は王の放浪と帰還、そして親子の闘争へ至る物語。短編ではあるがサーガ的重厚感を備えた一篇である。
また、「革命前夜」はあのオドー本人の物語である。革命とは何か、思想はいかなる形で次世代に伝わるものかが描かれる。しかし、これが老境における物語になろうとは想像もしていなかった。気持ちよく裏切られた。
もちろんそれ以外の作品もすべて満足度が高い。特に「オメラスから歩み去る人々」は、社会と倫理の関係を痛烈にうがったものである。彼女がただのファンタジー・SF作家にとどまらず、思想家としての側面が大きいことがうかがえる。
ル・グィンの評論も読みたくなった。また、ル・グィンを論じた多くの評論があるらしく、これも読んでみたくなった。