『本のエンドロール』安藤祐介
編集者、作家、デザイナーなどクリエイティブと言われる人々から「出版」を描いた作品は多いが、これは印刷会社の営業マンの目線で描いた出版業界ストーリー。
私もこの業界に関わった経験があり、また巨大印刷会社のある地元生まれ。それで小規模の印刷、製本工場が毎日けたたましい音を立てて機械を動かし、フォークリフトが走り回っていた時代を知っている。
そして、それらが次々と店をたたみ、印刷業界が縮小していくのも体感していた。そういえば本書に登場してくるような天才肌の装丁家の事務所で仕事をしていたことを思い出した。
本書では紙の本がなくなるのではという危機感を底流にし、それでも毎日の仕事をきっちりとこなす業界の人々を描いている。
「眼の前の仕事を間違いなくこなすこと。将来の希望はそれを通じて自ずと現れてくるもの」という本書のテーマは、この業界に限らずあらゆる職業に通じる態度だと思う。
ともすれば破天荒な者、破滅的な者を取り上げがちなフィクションの世界に、こうした地味で真面目な者たちに光を当てた作品がヒットすること、そのことに素直に拍手を送りたい。