『谷中村滅亡史』荒畑寒村
日本近代初であり、かつ最大規模の公害問題である足尾鉱毒事件。その事後史である谷中村破壊のルポルタージュ。
社会主義者であり活動家である荒畑寒村が当時の政府、行政、資本家が一体となった農民への不正行為を激烈に糾弾している。かつてはこうしたルポも珍しくはなかったのだ。
ところで、図書館で借りた本書は単行本版で初版1970年、第15版1977年、神泉社刊とある。表紙は小口一郎の版画で迫力がある。凡例によると同氏の足尾鉱毒史を扱った連作で「野に叫ぶ人々」から「人畜におよぶ被害」とのこと。
文章は旧漢文体で綴られており、明治末期はこのような日本語が普通だったことがうかがわれる。確かに今日となっては読み辛いが苦労して読み続けることこそ、この事件が忘却すべきでないことを刻みつける。
日露戦争と産業振興と農民。原発振興と大企業と市民。明治から平成まで見事なコントラストが引き継がれていることをあらためて感じる。