『日本アパッチ族』小松左京

『日本アパッチ族』小松左京

なぜかこれだけは読んでなかった小松左京の長編デビュー作。高度成長期の大阪の廃墟で生まれた食鉄人種が右傾化日本を揺るがしていくという痛快なSF。

グイグイとしたストーリーテリングも、政界、官僚、経済界の情勢を語る口調も、その後の「日本沈没」や「首都消失」「復活の日」にそのまま通じるものがある。

ところで、私は小松左京の神髄は「日本国土が失われたとき、日本人は日本文化や伝統をどうするのだろうかという問い」であると思う。それはこの長編デビュー作からしっかりとある。

思えば短編「地には平和を」や「くだんのはは」も戦争によって日本文化が失われた、あるいは失われつつある地平から始まる物語だった。

それは彼が戦後派だったこと、つまり幼少期を戦争中に過ごした世代であることと無関係ではない。空腹を内に抱え、寝場所を求めて廃墟を彷徨った少年時代の体験が、その後の経済発展日本を俯瞰したときに湧き上がってきた問いなのではないだろうか。

現代の世代がそれを感じ取れるかどうかは時代とは関係がない。ひとりひとりに想像力があるかないのかの問題である。