書籍一覧

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『富士日記』武田百合子

『富士日記』武田百合子 もう40年前になるが、私の父は風流な人で毎年8月になると猛暑の東京を逃れて精進湖で過ごすことにしていた。当然、その家族、母、私(小学生)、妹(小学生と幼稚園児)もそこで過ごすことになる。 釣りが好きで何度も訪れていた精進湖で知り合った地元の方から、空いてた古民家を毎年一ヶ月だけ借りたのだ。 精進湖はとにかく涼しいところで夜は布団をかけて寝ていたくらい。当時はテレビが映らず、数...

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『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』ルシア・ベルリン

『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』ルシア・ベルリン ルシアは1936年生まれ2004年死去の20センチュリーウーマン。 少女時代はアラスカや米中西部で貧しい生活を送り、女学生時代は脊柱障害でギブス装着の毎日を余儀なくされる。その後一転して南米チリでの豪奢な生活をおくる。 しかし、帰国後2回結婚し、2度めの夫と離婚してからはシングルマザーとして4人の子どもを育てることに。その間、家政婦...

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「死ぬ時はひとりぼっち」レイ・ブラッドベリ

「死ぬ時はひとりぼっち」レイ・ブラッドベリ ブラッドベリの1985年の長編。主人公は売れない小説家。雨の夜、ヴェニスビーチ行きの路面電車で後ろに座った男に「死ぬときはひとりぼっち("Death is a lonely business.")」と囁かれるところから始まる探偵小説。 それだけでファンならぞくぞくするのだが、期待を裏切らないノスタルジーと夜のイメージの奔流に心地よく流されていく小説体験。 ...

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「専門知は、もういらないのか」トム・ニコルズ

「専門知は、もういらないのか」トム・ニコルズ 国際政治を専門とする米国の大学教授による現代メディア論。インターネット、Google、ケーブルテレビの台頭、知性を敵視する大衆、その結果としてのトランプ大統領などタイトルから想定できる範囲を十分カバーしている。 特に興味深かったのが米国の大学事情についての章「高等教育―お客さまは神さま」。現役の教育者としての著者からの米国大学レポートである。 日本もそう...

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「タイム・シップ」スティーヴン・バクスター

「タイム・シップ」スティーヴン・バクスター H.G.ウェルズの古典「タイムマシン」の続編として書かれたもの。19世紀末の現在に帰ってきた主人公が翌日ウィーナのいる未来に還ったところ、そこは改変された未来だったという出だし。 リングワールド的な惑星土木工学、それからスチームパンク的な20世紀の戦争期、さらに太古の世界でサバイバルと人類種の始原。その後、量子論的宇宙観からサイバーパンクを経て宇宙の始まりへ遡る...

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「トリフィド時代 (食人植物の恐怖)」ジョン・ウィンダム

「トリフィド時代 (食人植物の恐怖)」ジョン・ウィンダム 1950年代のSFで誰もが知っている傑作。ある夜、世界中を覆った流星群を見た人々は視力を失った。同時に可動能力のある食肉植物トリフィドが蔓延し、視力を失った人々を襲い始める。というポスト・アポカリプスとサバイバルのジャンルの魁となる小説。 「トリフィドの日」という映画にもなったが、原作はそちらとは違って生き残った人々(晴眼者も失明者も)がどのように...

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「戦争は女の顔をしていない」スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

「戦争は女の顔をしていない」スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 大祖国戦争(第二次大戦におけるソ連とドイツの戦争)では100万人以上の女性兵士が従軍して闘ったという。アレクシエーヴィッチは1978年から2004年にかけてこれら元女性兵士等の500人から話を聞き、約200件の聞き書きをこの本に収めた。 この本以前には社会として明らかにしたがらず、また本人らとしても自ら語ることがなかったが、その体験は驚嘆すべ...

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「巨神計画」「巨神降臨」「巨神覚醒」シルヴァン・ヌーヴェル

「巨神計画」「巨神降臨」「巨神覚醒」シルヴァン・ヌーヴェル 太古に埋められた巨大ロボット。ようやくこれが制御可能になったとき、突然現れる新たなロボット群と激しい戦闘になる。ようやく異星人のロボットを撃退したとき、地球人のパイロットはロボットごと異世界へ運ばれることに。というのがこの3部作のあらすじ。 あらすじから想像するほどアニメとか映画っぽいストーリーではない。レポートの往復書簡形式なので緊迫感が持てな...

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「流れる星は生きている」藤原てい

流れる星は生きている 藤原てい 引き上げ文学の中心的作品。ノンフィクションだと思われていることが多いが、藤原本人も言っているようにフィクションの部分も多く含んでいる。 引き上げとなったとき長男は6歳、次男は3歳、3女は生後1ヶ月であった。これは長春で夫と別れこうした3人の幼児を連れて、1年がかりで帰国するまでの記録である。 宣川の収容所での1年間の人間関係も厳しい。また、帰国に向けて出発し38度線を...

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「忘れられた日本人」宮本常一

忘れられた日本人 (岩波文庫) 宮本 常一 民俗学研究の名著。昭和初期に全国を歩き、地元の古老の話を聞き書きしたもの。 当時の高齢者なのでその若いときの話となると江戸後期から明治、大正時代にかけての話。まさに生きた近代の記録である。 現代の視点から見ると目のさめるような事実がある。例えば女の一人旅が珍しくなく大事にされたこと。大工など職人層が農家の次男三男を吸収するだけのニーズがあったこと。彼らは...

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「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治

「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治 少年非行について認知機能という面にフォーカスし、考えるきっかけとなる一冊だった。 宮口は少年院勤務の経験のある臨床心理士。その非行少年ケアの提言は、そもそも非行少年(少女)たちは認知能力が低いので、その対策をしない限り更生は期待できないということ。 問題はそのことに気がついていない関係者が多く、紋切り型の対応を継続し、結果として再犯者を生み出すことになってい...

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「チャーズ 下―中国革命戦をくぐり抜けた日本人少女」遠藤誉

「チャーズ 下―中国革命戦をくぐり抜けた日本人少女」遠藤誉 衝撃的な引き上げ体験の記録「チャーズ 出口なき大地」の続編。単行本の「続 失われた時を求めて」に天津編を加えたもの。これも想像に絶する苦悩に満ちた道程の記録。物理的な苦痛のみならず、精神を守るためか感覚を閉ざして過ごした幼少期の精神史として壮絶。 遠藤は今日、祖国で物理学研究者として成功しても、なお記憶に呼び出すことのできないことを抱えたまま今日...

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「チャーズ―出口なき大地」遠藤誉

「チャーズ―出口なき大地」遠藤誉 「魂の脱植民地化とは何か」深尾葉子で取り上げられており、興味をもって読んでみた。引き揚げの体験談や書籍は数多くあれど、これは想像を絶する凝縮された体験。 遠藤の家族は戦前長春に暮らしていた。彼女の父は薬品製造販売(ギフトール)で成功しており、その社会的意義も中国社会から認められていた。それもあって戦後も現地に留まっていたのだが、国民党が支配する地域を八路軍(共産党軍)が包...

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「日本人のための憲法原論」小室直樹

「日本人のための憲法原論」小室直樹 日本国憲法のみならず、民主主義と資本主義の歴史的成立について親しみのある語り口で伝える良書。 そもそも人権という概念は神のもとでの平等という意識から始まり、それにはプロテスタンティズムの普及が必須であった。そこまでは分かるのだが、日本にそれを普及させるために天皇を中心の国にしなければならなかったという理論展開については疑問がある。日本人の平等意識は明治時代になってから急...

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「生きるための経済学 〈選択の自由〉からの脱却」安冨歩

「生きるための経済学 〈選択の自由〉からの脱却」安冨歩 安冨をある分野の専門家とすることに意味はない。それで思想家と呼ぶことにしているのだが、本書はその思想家としての安冨の経済学への批判と経済学があるべき方向についての指針である。 彼の近・現代経済学への批判は徹底している。そもそも市場経済理論は「相対性理論の否定」「熱力学第二法則の否定」「因果律の否定」によって成り立っているのだという。 需要と供給...

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「魂の脱植民地化とは何か」深尾葉子

「魂の脱植民地化とは何か」深尾葉子 さいきん集中的に読んでいる安冨歩の参加している叢書「魂の脱植民地化」の最初の一冊。 さまざまな「魂の植民地化」のケースを、ゼミ学生のレポートや「ハウルの動く城」、福島からの自主避難者の声などをケースとして取り上げている。「蓋」と「自己」そして「憑依」がそれを理解するためのキーワードである。 しかし、もっとも興味深いのは深尾本人の人生を取り上げているということ。 ...

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「合理的な神秘主義―生きるための思想史」安冨歩

「合理的な神秘主義―生きるための思想史」安冨歩 そもそも人は「何が正しいことなのか」を知り得ぬものだとしたら、どうして我々は生きていけるのか。本書は思想家としての安冨がこうした問いの答えを求めて古今東西の知と思想を遍歴したものである。 孔子、仏陀からスピノザ、マルクス、フロイト、ウィーナー、ミルグラムと古今東西の思想家を取り上げているが、彼らはいずれも一貫して「正しく生きるための知識」を求めている者である...

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「あなたが生きづらいのは「自己嫌悪」のせいである。 他人に支配されず、自由に生きる技術」安冨歩

「あなたが生きづらいのは「自己嫌悪」のせいである。 他人に支配されず、自由に生きる技術」安冨歩 一見よくある自己啓発本であり、実際に自己啓発が本書の目的でもあるが、人類や社会への洞察の深さから凡百とは一線を画する書である。 安冨が本年の参院選挙運動でマイケル・ジャクソンのヒール・ザ・ワールドをバックに「子どもを守りましょう」と繰り返すのはなぜなのか、本書を読んで納得がいった気がする。 私が最も興味深...

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「誰が星の王子さまを殺したのか――モラル・ハラスメントの罠」安冨歩

「誰が星の王子さまを殺したのか――モラル・ハラスメントの罠」安冨歩 この有名な児童書は、作者(サン・テクジュペリ)本人も意識することなくモラルハラスメントを描いた傑作であるとしている。極めて興味深い解釈である。 「星の王子さま」は複雑な構造であるが、印象的な登場人物やセリフが散りばめられている。ともすれば雰囲気だけで心温まる物語のように感じる人が多い。 しかし本書によると、これはある日、王子さまの星...

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「創造された「故郷」: ケーニヒスベルクからカリーニングラードへ」ユーリー コスチャショーフ

バルト海に面したロシアの飛び地「カーリニングラード」。その歴史と建国の経緯を描いた研究書。この土地の歴史は13世紀のドイツ騎士団による建国から始まるのだが、ソ連の統治からその過去がタブーになり語られることがなかった。しかし、本書ではロシアにとってこの土地が最も身近な西欧としていかに魅力的であったかが繰り返し語られる。 近年の経緯については、軍政による略奪と破壊から、文民統治時代における過去の書き直し(地名の変更...