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映画「人生をしまう時間(とき)」

映画「人生をしまう時間(とき)」 以前読んで感銘を受けた「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」をベースに、その著者と所属する在宅医療ステーションに密着して、さまざまな死を迎える人々をとらえたドキュメンタリー。 視覚障害のある娘と暮らす末期がん患者の老人。これまた末期がんである50代の娘と介護する高齢の母。近所に暮らす娘がいながら独居で死を迎える女性。 さまざまなエピソードがあるが、どれも高...

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「あなたが生きづらいのは「自己嫌悪」のせいである。 他人に支配されず、自由に生きる技術」安冨歩

「あなたが生きづらいのは「自己嫌悪」のせいである。 他人に支配されず、自由に生きる技術」安冨歩 一見よくある自己啓発本であり、実際に自己啓発が本書の目的でもあるが、人類や社会への洞察の深さから凡百とは一線を画する書である。 安冨が本年の参院選挙運動でマイケル・ジャクソンのヒール・ザ・ワールドをバックに「子どもを守りましょう」と繰り返すのはなぜなのか、本書を読んで納得がいった気がする。 私が最も興味深...

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「誰が星の王子さまを殺したのか――モラル・ハラスメントの罠」安冨歩

「誰が星の王子さまを殺したのか――モラル・ハラスメントの罠」安冨歩 この有名な児童書は、作者(サン・テクジュペリ)本人も意識することなくモラルハラスメントを描いた傑作であるとしている。極めて興味深い解釈である。 「星の王子さま」は複雑な構造であるが、印象的な登場人物やセリフが散りばめられている。ともすれば雰囲気だけで心温まる物語のように感じる人が多い。 しかし本書によると、これはある日、王子さまの星...

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話しているのは誰? 現代美術に潜む文学@国立新美術館

年齢や実績、表現手法に多様な作家6名によるグループ展。キュレーターの意識が顕になるこうした展示会は好み。それぞれに大きなスペース(とおそらく大きな制作費)を与えての贅沢な展示は、見る者の気持ちもリッチにさせる。 最初の部屋は田村友一郎。米国の田舎町のナンバープレートというモチーフから始まり、それが「Oar(オール)」>「All(すべて)」という認識へとつながるインスタレーションと映像の表現構成は見事。映像も最後...

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「創造された「故郷」: ケーニヒスベルクからカリーニングラードへ」ユーリー コスチャショーフ

バルト海に面したロシアの飛び地「カーリニングラード」。その歴史と建国の経緯を描いた研究書。この土地の歴史は13世紀のドイツ騎士団による建国から始まるのだが、ソ連の統治からその過去がタブーになり語られることがなかった。しかし、本書ではロシアにとってこの土地が最も身近な西欧としていかに魅力的であったかが繰り返し語られる。 近年の経緯については、軍政による略奪と破壊から、文民統治時代における過去の書き直し(地名の変更...

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「障害者の傷、介助者の痛み」渡邉琢

「介助者たちは、どう生きていくのか」の渡邉による、津久井やまゆり園事件以降の評論集。前作と同様、障害者介助の現場からの考察は実際的かつ奥深い。 重度障害者の生活といえば自宅監置か施設かという一般の見方に対し、地域での自立こそが当事者にとって最善、との考えは一貫している。その点から相模原障害者殺傷事件については「なぜ障害者はその施設にいたのか」「そこに行くことになった理由は何なのか」という点から問いかけを始めるの...

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「草薙の剣」橋本治

それぞれ関わりのない6家族の祖父、父、子どもを、戦前から現代にかけて同時平行に描いた近現代史的小説。という説明から想像できるようにとても退屈。四分の一くらい読んだところでそれが分かり、後はただひたすら終わらせるためだけに読んだ。あげく勝手に若者に希望をほのめかして終わり。投げ出したくなった。 これらは橋本が思うサンプル家族であって、世の中はもっと多様である。それが分かっているから小説読みは、ある一人の人生につい...

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「介助者たちは、どう生きていくのか―障害者の地域自立生活と介助という営み」渡邉琢

今年の参院選でふたりの重度障害者が国会議員になるという画期的なことがあった。選挙戦からその姿を見ており、また初登院の様子などを映像で見ていたのだが、ふと舩後議員と木村議員に寄り添う介助者について気になった。あるときは手足となり、あるときは声となっている介助者たち。それでこの本を読んでみた。 本書は障害者介護の実際と介護(ホームヘルプ)制度について実務者の立場から手際よく説明しており、現在の障害者介護・福祉を概観...

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「帝国日本」の残影 海外神社跡地写真展@横浜市民ギャラリー

非文字資料研究センターによるこの写真展のことを知り、急遽野毛山まで行ってきた。横浜市民ギャラリー、遠い。桜木町すぐにあったときは便利だったのに。 写真展は帝国日本によって戦前・戦中にアジア各地に建てられた神社の現状を探し出して、その跡地を撮影したもの。 助成事業ではあるものの、執念を感じさせる仕事だ。古い地図で場所を調べ、現在の地図でそれを確認。そして現地に足を運び、現地の人に話を聞いて撮影する。 ...

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「象徴天皇の旅: 平成に築かれた国民との絆」井上亮

本書は30年間にわたって皇室担当記者を勤めた著者による、平成天皇の旅の記録である。その旅は全国で行われる植樹祭を始め、中国、フィリピンなどの外国訪問やパラオ、ペリリューなどかつての戦場も。もちろん被災地訪問、離島訪問など多岐にわたる。 著者はその旅に毎回同行し、その都度感じた天皇と一般とのふれあいのあり方、警護のあり方、皇室報道のあり方などを問題提起している。 問題は多々ありながらも、それにも増して感動的...

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「魂の殺人」アリス・ミラー

今年の参院選で注目していた「れいわ新選組」の論客、やすとみ歩のスピーチで聞いて読む気になった一冊。 本書は精神分析家であるミラーによる、主に大戦間の西欧における教育の罪の告発の書である。 本書の前半は近代から現代にかけて西欧の幼児教育を覆っている「闇教育」について豊富な引用をもとに論じている。いわく、子どもというものは3歳までに徹底的に親に服従するように「しつけ」なければならない。それが子どもがその後の厳...

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「裏声で歌へ君が代」丸谷才一

ふとしたことで台湾独立運動のリーダーと知り合った主人公梨田が、いつのまにか中台政治活動の裏面に巻き込まれていくというストーリー。中国と台湾の思惑が浮かび上がり、国際政治の黒幕が暗躍。そして主人公がたっぷりと国家論を語るという知的なエンタテインメント小説である。 しかし、高度成長に浮かれる現在に過去の戦争がぽっかりと暗い口を開けるという部分は「笹まくら」にも共通する。 主人公が現在起きていることで翻弄されて...

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「アンダークラス ―新たな下層階級の出現」橋本健二

本書は非正規労働者であり、かつ貧困状態にある「アンダークラス」についての評論である。 アンダークラスは現在、国内に930万人もおり、それは就業人口の15%にのぼるという。本書ではこのアンダークラスに限らずその予備軍としての失業者・無業者にも言及しているが、その状態はさらに悲惨なものである。 橋本は定量的データをもとに統計的分析に専念しており筆致は冷静だが、こうして社会に不満を持ち将来に希望を持てない層が国...

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映画「水俣 患者さんとその世界」

渡辺京二が「死民と日常 <私の水俣病闘争>」で取り上げていたこの映画、たまたま川崎市民ミュージアムで上映するというので見に行った。 あの有名な蛸獲りのシーンも含めて、ほぼすべてが患者さんとその家族の日常であった。その日常には美しい海と悲惨な病が並存している。そして患者たちが笑顔であることが多いのはカメラを向けられているからだろうか。 当時の日本人はカメラの前で怒りや激しい感情をあらわにすることがなかったの...

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「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」新井紀子

著者は国立情報学研究所の先生で「AIを東大に合格させよう」というプロジェクトのリーダー。本書はそのプロジェクトの研究成果から見えたAI開発の限界と、全国の小中学校・大学生25,000人を対象にした基礎読解力テスト(RTS)の衝撃的な結果についての評論。 AIといえどしょせんコンピュータは四則演算をするのであり、ものごとの意味を理解しているわけではないというのが本書前半の骨子。AIの得意とする分野は論理、確率、統...

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映画「道草」

自立生活を模索する重度知的障害の人々とその支援者の日常を追ったドキュメンタリー映画。 「ともに生きる社会」を考える神奈川集会実行委員会の主催での自主上映会。スタッフが気持ちのいい対応で、来場者もよい時間を過ごした。これが自主上映会の醍醐味か。 家族に対する暴力やあたりかまわない奇声など、綺麗事でない現実を、ぼかしや音声変換で隠さずつまびらかに語った佳作。そのままでの公開に踏み切った製作者と許可した当事者に...

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「我的日本 ー台湾作家が旅した日本」

台湾の作家、エッセイスト18人による、日本の旅をテーマとしたアンソロジー。台湾の人々が「観光地」として見た日本が描かれていて新鮮。昨年、2泊3日で台湾を旅して以来中国語に興味を持ち、中国語講座に通い始めたうちの奥さんに読ませたいエッセイが何編かあった。 桜の季節になると毎年日本に行きたい熱が高まるという「はい、私は桜の季節にお花見に行ったことがないんです(江鵝)」では、実際にこの季節に多くの台湾人が日本を訪れて...

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映画『主戦場』

「従軍慰安婦問題に決着をつける」というキャッチコピーながら、やっていることは相変わらずの「両論併記」。しかもこうした映画を見にくる人がよろこびそうな方向に傾斜しつつという映画。 土曜日の夕方の回はほぼ満席。灯りがつくと自然発生的な拍手が湧いたが、それでよけいにがっかりした。見たい映像を見せてくれてありがとうという拍手は、映画の作り手としてうれしいものなのだろうか。 このテーマが両サイドから繰り返し取り上げ...

映画「ニッポン国 VS 泉南石綿村」

大阪府泉南市住民によるアスベスト訴訟の8年間を追ったドキュメンタリー。メイシネマ祭’19で鑑賞。あのホールの3分の1くらい埋まってたからだいたい100人くらい集まっていたか。 しかし3時間半は長い。原告が多いのでひとりひとりにじっくり話を聴くと長くなってしまうのは仕方ないが、それでも最高裁判決まで出た訴訟なのだから「ここがポイント」という編集をしてほしかった。 それにしても驚いたのは原監督自らが原告に対し...

「死民と日常 <私の水俣病闘争>」 渡辺京二

水俣病闘争において運動側の中心人物のひとりである渡辺による評論集。本編の焦眉は「水俣から訴えられたこと」という講演採録。本人によるあの活動の総括という位置付けは1990年の講演である。 ドキュメンタリー映画「水俣ー患者さんとその世界」にある蛸とりのシーンが暗示するように、患者を死病にかかった可哀想な病人としてではなく、まずは水俣の日常を生きる民である。そういう幅で捉えるべき、というのが彼の心...