「オオカミの護符」小倉美惠子(新潮社)
著者は川崎市土橋の出身。ここは現在、田園都市線の宮前平駅周辺で瀟洒な住宅街だが、かつてはわずかな集落による農村だった。
著者の実家も農家で今日では農業はやめている。
ある日、著者は実家の蔵にはられたお札のオオカミの図案に惹かれた。そして、かつての農村社会とその生活に欠かせない「講」についての映像記録と聞き書きをすることにした。その調査作業の記録が本書である。
映画は以前から気になっていたドキュメンタリーなのだが上映も終わり、観る機会がなくなって残念。
全国的に山岳信仰に基づいた講が盛んだったことは知っていたが、このように近代から今日にかけての状況をまとめた記録はとても興味深い。
農村において今日でも続く御嶽講送りの慣習。古老に聞き取りした御嶽山参りの様子。また、行者が里で行う布教など。
それにしても御嶽山にあるように多くの霊山に今日でも宿坊があり、さまざまな形で存続していることが興味深い。
それを信仰心の篤さと単純に呼ぶ気にはならない。しかし、山と森林を尊ぶ心、そしてそこで暮らす人々に対する敬愛の情が、今日の日本人にまだ多くあることは間違いないと思った。