Amazon.co.jp : 橋をかける―子供時代の読書の思い出 : 美智子 : 本
皇后美智子さまが、インド・ニューデリーで1998年に開催された国際児童図書評議会世界大会のキーノートスピーチを行った。本書はビデオで行われたこの講演の原稿を書籍化したものである。
きわめて公的な立場のある方の講演なので、かなり形式張ったものかと思ったが、予想を大きく裏切る心のこもった素晴らしい文書だった。
美智子様の幼少の頃の読書体験というと戦時中のことになるが、すさんだ時代でもあり、数少ない子ども向けの本を繰り返し読むということではあったが、その読書体験がいかに豊かなものであったかが読み取れる。
そして紹介される本の選択には、美智子様の深い人生観と子どもたちへの慈しみがにじみ出ている。
例えば、でんでんむしの殻に詰まった悲しみを描く新美南吉の「でんでんむしのかなしみ」。または古事記にある、倭建御子(やまとたけるのみこ)と弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)の物語。
その解釈は、一般的な児童文学の解釈を超えており、単なるロマンチシズムというものではなかった。そこには人生と文学を見通す深い洞察力と感性があった。
他にも山本有三が戦時中に編纂した「世界名作選」からのケストナーの「絶望」や、ソログーブの「身体検査」という物語をここで挙げている。そのことから、美智子様にも多くの苦しみや悲しみを経ての今日があることもまた暗示しているのだと思う。
私は国民の象徴としての美智子様をもちろん敬愛している。しかし、本書を読んで、またひとりの読書人としての皇后にも尊敬と共感を覚えた。
本書の内容は宮内庁のウェブでも読める。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/ibby/koen-h10sk-newdelhi.html