映画『流麻溝十五號』

映画『流麻溝十五號』

本作は台湾の白色テロ時代(1949-1987)、緑島の新生訓導処にいわれなき理由で思想犯として収容された女たちの日々を描いた劇映画である。これはドラマではあるがもちろん実話に基づいている。原作は同じタイトルのオーラルヒストリー集「流麻溝十五號―綠島女生分隊及其他」。

映画については言うまでもなく傑作である。不屈をたたえた抑えた感情表現の女優たちの演技が素晴らしい。また、終わりなき悲惨の果に希望を垣間見せた演出も撮影も素晴らしい。画面は一面の曇り空だが凛とした空気が張り詰めている。「悲情城市」「牯嶺街少年殺人事件」に連なる台湾映画の至宝のひとつとなるだろう。

ところで、白色テロの犠牲者というと本省人であると思ってしまうが、実際に新生訓導処に送られた者のうち45%は外省人であった。そして最年少は14歳。本作の主要キャストも高校生の女性である。

こうした点から本作も多言語が効果的に使われている。華語はもちろん、台湾語、日本語、客家語、原住民語(歌が素晴らしい)が場面に応じて適宜使われる。それどころか大陸からの移住者が話す言葉には地方の言語もあったらしい。

こうした多言語構造は台湾映画としては普通のことである。私は台湾映画を観るといつもこの国の連続植民地としての歴史を垣間見るのだ。

日本人には台湾ファンが多いが、もう一歩踏み込んで今日の台湾社会を作った近現代史を知るといいのにと思う。そして、それは「相互理解」であって、日本も東アジア史の一方の当事者。私たち日本人もアジアの過去と歴史、それに関わった日本の過去を忘れるべきではないと思う。

台湾人の知人がときどき「今でも忘れていない」「憎しみは今なおある」と漏らすことがある。「でも仕方がない」とも。現代の台湾は「激動の時代があったが今日は民主的な社会を築きつつある」という見方がある。しかし、実際はそんなに単純なことではない。彼の言葉から現在進行形の社会分断と、今なお心に残る葛藤が渦巻いていることがうかがえる。

ところで、本映画のパンフレットが充実していることも高く評価したい。映画についてはもちろん、時代背景、当時の政治状況についても専門家が文章を寄せており、「移行期正義」を踏まえた現代の台湾社会への視点にまで目配りが行き届いている。劇場でぜひ入手されることをおすすめする。

上記でも触れた本映画の原作となったオーラスヒストリー「流麻溝十五號ー綠島女生分隊及其他」はまだ日本語に翻訳されていない。一刻も早く邦訳を出版してほしい。