映画『658km、陽子の旅』

映画『658km、陽子の旅』

東京から青森、新幹線なら3時間とちょっとの距離でロードムービーなんてできるのか?と思ったが、スマホを取り上げて本人がコミュ障ならきちんと成立するんだ。

ときどきこんな良い体験させてくれる映画があるから日本映画は面白い。

主役も今どきのピカピカしたきれいな女の子や男の子でなくて42歳のロスジェネ女子。言葉も聞き取りにくいし、やることなすこと世渡りに不慣れで全編にわたってイライラする。でも菊地凛子!

そもそも現実の世の中で映画のセリフみたいに無駄のない会話なんてあるのか。私はドキュメンタリーみたいに話題が回り道して、本心を隠して思わせぶりばかり、の方がより真実に近いと思う。私からするとこっちの方がよっぽど好ましい。

チェルフィッチュの芝居のセリフに「…みたいな。」「でも、あれかな、と…」みたいなのがよくあるが、時間と空間をスクリーン(舞台)の人たちと共有するのにはそれがむしろ適していると思う。そういう意味でもこのコミュ障女子と映画の中で旅をするのに、このセリフ回しは有効だと思う。

これが受け入れられない人は映画で時間つぶしをしていればいい。映画鑑賞の歓びをこれからも知らずに過ごしていくんだろうなと思うから。