『台湾を知る: 台湾国民中学歴史教科書』国立編訳館
台湾で自国の歴史がどのように教えられているのかが気になって手に入れた一冊。
1997年発行の同国初めての台湾師教科書である。それまでの歴史教科書は大陸の歴史についてはボリュームも大きく詳細だったが、台湾島についてはわずかだったという。
228事件については本書で初めて教科書に掲載されたらしい。掲載されたこと自体が大きなトピックだったらしいがそれでも記述はほんのわずかであり、そのことから民主化の始まったこの時期の様子をうかがい知ることができる。
日本統治時代のエピソードで印象的だったのは、その後の国民党統治時代に振り返って語る次のくだり。「日本語版刊行にあたって」のページviにある。
さて、ここで特に取り上げたいのが、「社会の変遷」の節目である。中でも「時間厳守の概念の養成」「尊法精神の確立」「近代的衛生概念の確立」という項目を設け、それらに関する諸施策と成果を大きく紹介していることだ。(中略)しかし、ここで思い出されるのは、この3つの「徳目」こそ、実は戦後の台湾で支配階級であった大陸出身者に対する、台湾人の近代文明人としての、言わば最低限の証であり、密かな優越感をもたらすものであったことだ。
それ以外に日本統治時代の初期にあった台湾民主国の勃興と武装抗日について章を割いていることが興味深かった。他の論文等でも台湾の国民意識にこのことが重要な歴史的事実であったことが指摘されているが、この歴史教科書によってそれが補強された感がある。
2020年版歴史教科書も日本語訳されている(『詳説台湾の歴史 台湾高校歴史教科書』)のでこちらもぜひ入手したい。