「台湾語と文字の社会言語学」吉田真悟

「台湾語と文字の社会言語学」吉田真悟

日本の台湾語研究者による台湾語の文字に関する調査論文。

日本統治時代以前の台湾で共通語だった台湾語(閩南語、ホーロー語)だが、当時から書き文字が確定していなかった。当時、台湾エリートたちによる文字確立運動があったが、それから100年以上経過してもなお確定はしていない。

本論は台湾語の言語的特徴、表記方法(全羅・全漢・羅漢)、教科書、雑誌、歌謡曲、景観(看板)における使用状況の調査、文字確定論者のインタビューをカバーしている。

私は本論の調査対象は事象全体の一部に過ぎないとの印象である。文字使用状況についてはむしろ台湾華語への浸透状況について知りたかった。また、インタビュー対象者も文学者が中心で本課題に意識が高い層に限られていると思う。

今日ではSNSにおける台湾語使用が盛んになっており、また台湾語の歌詞のみで歌うロックバンド(拍謝少年)もいる。これらを取り上げて若年層も含む一般国民の台湾語書き文字の受容状況も知りたいと思う。

また、本書は「ダイアグラフィア」という見慣れない言語概念を分析の基礎にしている。「同一言語に2種類の書記形態が存在する状態において、2つの異なる文字形態がそれぞれの言語共同体に用いられる場合(p.7)」がそれであるとしている。台湾語においてはローマ字表記、漢字ローマ字混交、漢字表記がそれである。その状態は未だ確定した方向性がなく「様々な形態の『羅漢』の中で揺れ動いている(p.211)」という結論らしい。

本書を通読して台湾語も台湾華語も知らない日本人には隔靴掻痒の感が大いにあった。むしろ台湾人によるこの問題の論文・著作の翻訳が数多く読めるといいと感じた。

しかし、こうした極めて限定的なテーマであっても日本の研究者がいる事が高く評価されるべきである。こうした点で日本のアカデミアはもっと評価されてもいい。