映画『PERFECT DAYS』
ヴェンダース監督作品とか役所広司総合プロデューサーとかいろいろと話題はある。総合的に言って良い映画だったで落ち着きそうだったが監督のインタビューを見てから底の浅さが迫ってきて失望感が勝った。
淡々とした日常に若い女とか家出した姪とかを挿入しないとストーリーがつなげないのだろうか。黙々とこうした仕事に従事する男の日常を描くだけ、どんな過去があってこうなったのかも匂わせないで終わりまで見せられたら傑作になれたのにと残念。
おそらく現実の人々の方がドラマチックな人生を送っていることは名監督にはわからないのだろう。その点では普通の人々に寄り添うドキュメンタリーの方が見応えがある。
しかし、カメラ、照明、美術などのスタッフは飛び抜けている。アパートの早朝、休日の午後、浅草地下街の居酒屋、一番風呂の銭湯、雨合羽で疾走する自転車、誰が相手とも知れないマルバツメモ。東京の低い視点を理解している者でなければ捉えられない景色。外国人スタッフが尊敬を持って日本人スタッフと協働して画作りをしているのがわかる。
脇の役者も素晴らしい。日差しの中で動作するホームレス、一回もアップがなかったけど絶対田中泯だと思っていたらやっぱりそうだった。他にも居酒屋の甲本雅裕、ビシッとしたトイレ掃除のヘルプ安藤玉恵など一瞬も油断できないくらい良いキャスティングだった。写真店主人はあの翻訳家の柴田元幸のことか?
しかし、最も良かったのは居酒屋のママの元夫三浦友和。年月が積み重なって声と顔がどんどん良くなるという日本では数少ない役者ではなかろうか。隅田川のリバーウォークでの役所との掛け合いはこれだけで観てよかったと感じるシーンだった。
カセットで流れる60年代アメリカン・ロック(パティ・スミス、ルウ・リード)も探し出して聞きたくなった。
いろいろと良いところが多いので観る価値がある映画だとは思うが、公衆便所の清掃に従事することの失望や苛立ちやそれでも胸に残る満足感をもっと掘り下げるべきだったのではないかと思う。あらためて主役の平山の過去は一般人であるべきだったと思う。