『禍』小田雅久仁

『禍』小田雅久仁

ホラーではなく不条理小説。常に一人称でひたすら自分の深みへ潜っていくような話ばかり。登場人物が「私」および「怪異のある者」だけなので普通のダイアログがない。思えば安部公房や筒井康隆には歴史を背景にした現実社会への苛立ちがあって、それが読者に共有されていた。それでいかなる不条理もすんなり受け入れられていたのだろう。現代社会でそうした底流は何なのだろうかと考えさせられた。この短編集ではそれはみつからなかった。