『踏切の幽霊』高野和明
これもホラーではなくゴースト・ストーリーで、一般小説としていい話に落ち着いてしまっている。しかし、2022年に書かれたこの小説はどうして1990年代のバブル経済直後を舞台にしたのだろう。いろいろ深読みしてみたがその理由が見当たらない。主人公が雑誌記者で記者という職業がフリーな立場で他人の人生を調べることができた。そういう時代だったという認識なのだろうか。
それから組織暴力団や悪徳政治家があまりにもありふれた認識でそこに辟易とした。社会の嫌われ役とは言え、彼らにはそれぞれのバックグラウンドがあるということを匂わせるべきではないか。また、不幸な生い立ちに生まれ不幸な最後を迎える女性についてもあまりにも理に適いすぎている。もっと放り出すような書き方をするべきだったのではないか。
しかし、流石に取材チームという群像の描き方はきちっと型にはまっている。件の踏切に主要メンバーを集合させ怪異発生の舞台とするというテレビドラマとか映画の脚本としては見事なものだと思った。ただそれがうまくはまりすぎて小説としての印象に残らない。現代の小説は「なんで、どうして?」と読者を置き去りにすることが必要なのかもしれない。