『秘本三国志』陳舜臣
昭和によくある三国志解釈の読み物。同時代の道教団体五斗米道の指導者少容を語り部に英雄知将の活動を描いたもの。
本書ではその少容を各陣営間を縦横に動くことができてどの梟雄、智将とも自由に会話できる人物として設定している。本書はそうした舞台回しによって陳の空想を好き放題に広げただけのものである。読んでいてうんざりした。
結局、史実は無味乾燥に見えながらも歴史そのものはエキサイティングなものであるという認識が陳にはない。歴史に対するときには真摯な態度が必要である。陳も司馬遼太郎もそうだが嬉々として自分の歴史観を説く小説には読む価値がない。
そういえば当時の小説雑誌にはこうしたちょっと知的で物知り気分になれる読み物がいくつも掲載されていた。そういうものを史実だと思ってしまう読者がいるとすれば哀れである。