『夏の葬列』山川方夫
「三田文学」の編集長であり戦後派の代表的な作家、山川方夫の短編集。教科書にもなった「夏の葬列」は戦後復興を生きる「私」が封印した死と隣り合わせの少年の日々の記憶を暴かれる物語。ショートショートという短さが人生の残酷さを際立たせている。
しかし、この短編集で最も印象深いのはやや長い「煙突」と「海岸公園」。「煙突」は終戦直後の食糧不足と将来が見えない毎日に生命力を持て余した中学生と、その友達とも言えないような同級生との無為な日々を描いた傑作。
「海岸公園」は、戦争中に借金を残して亡くなった父、病気がちでありながらも頑迷な母、その母と鋭く対立し自分の立場を譲らない高齢の祖父らとの家族問題を解決しようともがく男の物語。もはや戦後ではない時期にありながらも喪失感を奥底に潜ませ、時折空虚な激情を噴出させる男が主人公である。
いずれの作品にも戦後派世代のひりつくような心の痛みとそれが常態となった空腹感が刻みつけられている。戦後派世代とは戦中を少年として過ごし、終戦とその後の価値観の転換を青年期に経験した者である。
思えば私の父も学童疎開を経験し、酔えば繰り返し「飢え」のことを語ったものだ。私はこれらの作品を読んで毎夜繰り返されるそれを畏まって聞かなければならない苦痛を思い出した。
山川方夫はようやく作家として軌道に乗りかけた35歳で交通事故で亡くなった(昭和40年、1965年)。結婚して翌年のことだったという。