『静かな基隆港――埠頭労働者たちの昼と夜』魏明毅

『静かな基隆港――埠頭労働者たちの昼と夜』魏明毅

著者は台湾出身の心理カウンセラー。精華大学人類学研究所であらためて人類学を学び、その修士論文のために、台湾で最も自殺率が高いとされる基隆でフィールドワークを行った。本書はその修士論文を基に、1960年代から2010年代までの基隆港の港湾労働者とその家族、さらに繁華街で働く女性たちを対象としたルポルタージュである。

台湾の輸出入産業が隆盛を迎えるなか、港湾労働者たちは過酷な労働と引き換えに高収入を得るようになった。しかし、やがてグローバル化の波にのまれ、基隆港は国際貨物港としての地位を徐々に失い、それとともに彼らの居場所も失われていく。本書は、そうした彼らの人生の変遷を手際よく、かつ詳細に描き出している。

彼らの港での仕事は、「五十公司」時代と呼ばれる、肉体を使って荷下ろしを行う苦力労働から始まる。やがてコンテナ船とトレーラーによる輸送の時代へと移行し、貨物需要は減少しながらも、組合制度の下で高賃金が維持されていた。この時代は「工人頭家(働く親方)」の時代と呼ばれる。

短時間労働・高賃金のこの時期、港湾労働者たちは強い仲間意識を育み、自らを「ガウラン(甲斐性のある男)」と誇った。しかし、それは一時的な繁栄に過ぎなかった。基隆港の取扱量は減少し、最終的に港湾業務の民営化により、彼らは短時間・低賃金という現実に直面することになる。この時代は「底辺の時代」と呼ばれる。

「工人頭家」の時代には、仕事終わりに鉄路街の清茶館や茶屋で時間を過ごすのが常だった男たちも、「底辺の時代」にはまっすぐ家に帰るようになった。しかし、家庭にはすでに彼らの居場所はなかった。

このような状況は、高度経済成長期の日本のサラリーマン像を彷彿とさせる。こうした衰退産業の労働者たちの変化は、台湾と日本でどのような違いを見せるのだろうか。日台には多くの事例があり、それらを比較検討するのはきわめて興味深い。

いずれにせよ、このような台湾の労働問題を日本語で読むことができるのは貴重であり、ありがたいことである。出版社と翻訳者に敬意を表したい。