『近代台湾女性史: 日本の植民統治と新女性の誕生』洪郁如

『近代台湾女性史: 日本の植民統治と新女性の誕生』洪郁如

こちらも台湾の近代史研究者による論文集で日本語で書かれたもので翻訳ではない。

最も興味深かったのは第一章「解纏足運動」である。日本時代の始まりには纏足は一般的で裕福な家庭はもちろん、そうではない家庭にも纏足をしている女子が見られたという。纏足は今日的には残酷な風習と見られるが「小さな足」を美とする感性が当時の女性にもあり、苦しみながらも好んでするものであったとのことである。しかし、現実的には不自由な足が女性の外出を妨げ、その結果文盲となり知性の発展を妨げることになっていた。

新たな統治者である日本の総督府は台湾人エリート層女性をこの陋習から開放することを辮髪と同じく中国文化からの切り離しの目的で進めた。一方それを受け入れた台湾人の側からは、世界の近代化の趨勢に同調するために無知で労働に適さない纏足の女性ではなく日本語を解し、堂々と世間と渡り合える知性のある女性を求めていた。また、女性にとっても日本語を解し、近代的知識を持っていることが纏足に代わる新たなステータスとなった。

以上が洪の日本時代の解纏足に関する見立てである。私はこれは論の組み立てにおいてパズルのようにきれいにハマりすぎているような感じを受けた。植民地と非植民者の50年間は多くの紆余曲折と隠された要素があるはずではないだろうかと考えている。

それはそれとして本書には多くの一般誌の投書や学生新聞、卒業文集などからの引用が多く見られ、それが新聞記者などプロの文章からは得られない粗い情報として伝わってくることを高く評価したい。

他にも女子教育の展開、新たな女性像の誕生、結婚への意識変化、女性の社会運動への参加、新エリート家庭像など興味深いテーマが本書には多い。ただ、次作「誰の日本時代」で本人も記しているように対象者がエリート層へ限定されており貧困層への視点が欠けている。しかし、それは次作でかなり解消されている。