映画「9月11日」@ポレポレ東中野
日本各地で老人介護に従事する20代から30代の若者たちによるトークイベントのドキュメンタリー。
映画はイベントの様子とそれぞれの施設の日常を交互にテンポよく映し出す。このイベントは今年の9月11日のことで、映画となって上映されたのが12月。そのスピード感にも驚く。
人生の終わり近くになった老人たちを介護するという日々を過ごす若者たち。彼らが何を語るのか興味があって観に行ったが、衝撃的だった。
これまでの日本人が持っている人生観や社会観を覆すようなディスカッションだった。
そして、それがアフガニスタンやアフリカではなく、私たちの日常のすぐ隣りで今この瞬間にも進行しているということに目を覚まされた。それが視界に入っていながらも見過ごしていたことにも。
「もはや、より勉強し、より働き、よりたくさん稼ぎ、そうすればよりよい人生を送れるという考え方が、臨界を過ぎてしまっていると思う」
評論家が言いそうなセリフだが、これが老人介護の現場から、しかも20代から30代の若者の声であることでとてつもない深みを帯びる。
「だから、ただ生きてればいいやん、と思う」
私たちの社会は進歩を前提としている。昨日できたことを今日はもっとうまくやろう。今日の課題は明日には解決しよう。そうして私たちは日々を過している。しかし、老人の日々により良い未来は大きな意味をなさないのかもしれない。
だから、ただより長く生きるための医療技術の向上よりも、より活動的に過ごすための活性化プログラムよりも、施設のよりよい運営や介護のノウハウ向上よりも、ただよりそって、彼らが行くところにどこまでも付いて行ってあげることがより大事なのだろうと思った。
こうした体験に裏打ちされた考えを、いわゆるロスジェネ世代で、介護ビジネスにたどりついた若者が語ることは無視できない。
そして彼らが自らのことを語る言葉を手に入れたことも重要だと思う。それは実績のみで語ることが尊重された時代から、途中経過であっても発信し、つながりを求めていく社会システムへの萌芽である。
これらは今日の経済発展を前提とした社会システムの行き詰まりを考える上での重要な視点だと思う。だからこそ「これからの100年の話をしよう」というサブタイトルに納得する。
私はこの映画を介護業界の話題としてではなく、就職に悩む若者や生き方に疑問を持つ若者たちに観てほしい。そして、今日の社会にありかたに疑問を持ってほしいと思う。