フィールドノーツ研究会 俗称「勝手に『ウメサオタダオ研』」@:東京大学 福武ラーニングスタジオ
梅棹忠夫は文系研究者としての最高のキャリアを上り詰めた人だと思う。彼は京都の老舗に生まれ、若いときは未踏の地を探検して遭難しかけたりと無茶もしたが、後に大阪万博の影の立役者として政府と交渉したり、国立民族学博物館設立の中心人物になったりと、生涯を通じて八面六臂の活躍。
あるオバちゃんがウメサオタダオ展のポスターをじっと見て、「いい男だねネ、昭和の男はいい顔してるワ」と言ったのを聞いて、梅棹は関西地方では知的アイドルなのかもしれないと思った。
今回のワークショプは国立民族学博物館主催の「ウメサオタダオ展」の東京・日本科学未来館での巡回展を素材に、梅棹の多様な成果を再考しようとするもの。
参加者は梅棹考案の京大式カードを持って展示会場に行き、思いついたことを書いておく。それを会場に持ち寄ってワークショップ形式で一冊の本を作りましょうというのが第一部。第二部は梅棹や文化人類学、フィールドワークに関わる研究者と会場のやりとりでディスカッションという構成。
会場には若い人達が目立ったが、リアルタイムで梅棹の活躍を経験した世代も多く参加していた。これから作る書籍カバーが用意されていたり、食事がやけに豪華だったりとさすがに文系のワークショップは仕掛けが充実している。
各参加チームの発表では予想通りネット時代の情報管理、主にEvernoteなどのITツールとの関連で梅棹の知的生産技術を語るものが多かった。確かに今日の状況においては、ますます梅棹の情報整理術が貴重な指針となるはずである。
「分類法をきめるということは、じつは、思想に、あるワクをもうけるということなのだ。きっちりと決められた分類体系のなかにカードをほうりこむと、そのカードは、しばしば窒息して死んでしまう。」知的生産の技術(P59)
「未整理のカードがいくらふえても、いっこうにかまわない。それこそは、あたらしい創造をうみだす源泉なのである。」知的生産の技術(P59)
カードを作るとき、カテゴリやタグを決めるのが手間になって記録しないのは本末転倒。とりあえず未分類に放り込んでおけばいい、という40年前の梅棹の示唆はEvernoteの使い方に悩む私にとって大きな救いだった。
「カードは分類することが重要なのではない。くりかえしくることがたいせつなのだ。」知的生産の技術(P59)
つまり、記録するハードルはできるだけ下げるべきであり、ノートは徹底的に気軽に作るべきである。重要なのは(未分類に放り込んでおいた)ノートを繰り返し見直すこと、それが情報カードの本質である。そのように私は理解した。
ワークショップに参加して情報整理の考え方の整理ができたし、若い学生や専門の先生とたくさん話ができて多くの刺激をもらった。良いワークショップだったと思う。