展覧会情報東京国立近代美術館 60周年記念特別展 美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年
美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年@東京国立近代美術館
リニューアルされた常設フロアだが、各フロアともぐるっと回遊できる形式ではなく行き止まりのあるルート形式になった。後でガイドツアーの方に聞いたらそういう意図とのこと。これに伴って小スペースが多くなった。4階から3階へ降りる階段が使えるようになったのはよい。
これまでガラスケースに入っていた日本画が壁面設置となり、かなり接近して鑑賞することができるのは低反射ガラスのカバーのおかげらしい。
リニュアル記念ということもありなかなか展示されない作品も多く、貴重な機会とのこと。
これまで2点ずつしか出て来なかった戦争画が6点も出されて壮観だった。どれも一度は見たことのある作品だがこれだけ一同に会すと当時の美術展で人々が受けた興奮が伝わってくる。
以前、小企画展をやっていた2階のスペースが海外作家の場所になっており、ここではもう企画展はしないのかと思って聞いてみた。テーマに合わせて各フロアのコーナーでやることになるだろうとのこと。コーナーにすでにテーマがあるので「意味ありげなしみ」や「路上」のような横断的テーマは置きにくいだろうなと思う。
2階のエレベーターホールに田中功起があった。ヨコトリ2011くらいたくさんあるとあれを作品と思えなくもないが、単に引越しの途中?くらいにしか感じなかった。
すごかったのは1階の企画展フロアでやっていた「実験場1950s」。
1950年代から現代を照射する平面、立体、映像作品群。何を通じて照射しているのかというと、間違いなく「原子力」と「社会」という具体的なアイテム。
オープンニングから土門拳の長崎と広島の有名な写真群。また、砂川事件を扱った中村宏の作品と貴重なニュース映像。
さらに、原発立地で注目されている青森県大間の原発以前の暮らしを伝える貴重なドキュメンタリー映像。
また、松本俊夫の実験的な映像作品「白い長い線の記録」は電力団体から製作依頼されたエネルギーについての極めて抽象的なもの。
個々の作品が優れていることは言うまでもないが、展示は当時がアートと社会が密接であったことを強烈に発信している。
原子力に対する単純な批判はない、しかし多くの作品を通じて当時の状況を概観するという体験は、これについて再び考えることを強く促す。
もちろん現代の状況についても。これが原発問題についてのアートからのひとつのアプローチであることは間違いない。
国立の美術館でこうした企画展を実現したことに頭が下がる。民間の美術館では無理だろう。また、同様のテーマであった埼玉県立美術館の企画展は、とりとめのない作品の「配置」に過ぎなかった。企画者の意思の強度の違いだろう。
意図をくみつつ平面作品などを見て映像作品をじっくり見ていると半日はかかる。満足感たっぷりの企画展だった。
しかし、残念なのは4階の眺めのいい休憩室から自動販売機が撤去されてしまったこと。あそこで思い出しながらゆっくりするのが好きだったのに。
あと、レストランが笑えるくらい高くなっていた。ランチ3500円からってのは何?
そもそも国立の公共施設なのだから利用者に資するサービスでなければならないのではないか。どんな入札で決まったのか仕様書を見てみたい。