恵比寿映像祭2012「即興オムニバス映画《“BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW” Omnibus 2011-12》」@東京都写真美術館
恵比寿映像祭2012「即興オムニバス映画《“BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW” Omnibus 2011-12》」@東京都写真美術館
映像作家の前田真二郎による映像プロジェクト。今年の恵比寿映像祭の上映では一番面白かった。
前田はある指示書を提示して全国の映像作家に参加を呼びかけた。その指示書とは①明日行くところを決めてそれについて語る、②そこに行って映像を記録する、③昨日行ったところについて語る、④映像と録音を編集して5分間の作品にする、というもの。
今回は昨年4月に作成された第1期作品と8月31日と9月11日に作成された作品の合計22本が上映された。いずれもプロジェクトのウェブサイトですべて公開されている。
311以降の作品とは言っても、ほとんどが普通の人々の日常を描くものだった。それがこの時代を記録する試行として貴重なものとなっており、その普通さがかえって胸をうつものだった。
指示書を受け取って「明日、どこに行こう?」と相談する相手は家族だったり、恋人だったり、携帯電話で親しい友人に連絡して断られたり、自分ひとりに問いかけたりする。行くところも特別なところではなく、実家とか墓参りとか近所の神社とかの極めてパーソナルな旅が多い。
それでもその日常の映像には311の影がどこかにまとわりついている。今日の映像作家は、マスメディアやネットメディアのようにその影を声高に叫ぶことはしない。それが彼らにとってビデオというツールがすでに生活や人生の一部と化していることの証のように感じた。
ビデオというツールは映画のようなプロジェクトや産業ではないし、ネットのように華々しいテクノロジーやビジネスでもない。しかし、自分やその周辺、そしてその肌触りや内面を表現する手段として最もしっくりする道具になったのではないか。この上映で多くの作品を見て、また最後の舞台挨拶にあらわれた多くの作家たちを見てそう思った。
作品点数が多かったし、特徴のある作品ばかりでもなかったのだが、舞台挨拶で「私の作品は…」と言う、ひとつひとつの作品を私は明確に覚えていた。その出来事が普通であるだけに、かえって心にスムーズに浸透していったようだ。
しかし、中でも最も記憶に残ったのが池田泰教の「郡山に住む父と過ごした一日 Hunging in Mid-air」。その父は住宅設備か工業設備の販売をしているのだろうか、映像はその仕事場の室内のみ。池田はそこで寡黙に作業する父を撮った。「何か」の測定器だろうか、装置の発するノイズが静かな日常に不穏なものが存在することを示唆する。今日の若い作家の、静かだが持続する意思に感銘した。