映画『原発の町を追われて』

映画「原発の町を追われて」

結局「脱原発」にしても「被災者へ適切な支援がされていない」にしても、主張がまずあって、それを伝えるために映像をつくるというドキュメンタリー映画はつまらない。それが「フタバから遠く離れて」だった。

それに対して、まず被災者と知り合いになり、会話を交わすようになり、その流れでカメラを回すようになる。それで、できた映像からある主張が浮かび上がってくる。そして、その主張は個人と社会という普遍的なテーマである。「原発の町を追われて」はそんな映画だった。

久しぶりに心の底に触れた映画だった。アフタートークで、「双葉の人たちは勝手にしゃべってくれる」って監督は言ってたけど、映像の表情を見てればわかる。こんなに心を開いて話をしてくれるのは、監督の個性のおかげだろう。避難民のひとりとは親友になったというエピソードもうなずける。

上映会は福音館書店の組合の主催で、会場は就業後の作業場らしきところ。参加は30人ほどと小規模だったが、気持ちのある人が声を掛けあって集まったというような温かく、濃密なイベントだった。

過去の上映会を見ると、カフェや公民館、個人住宅などで既に100回以上やっているらしい。おそらくどれもそんな雰囲気なのだろう。

それにしても避難所となった旧騎西高校では煮炊きができず、食事は弁当のみだったという。消防法が理由だろうが、せめて食事を自分で用意できるよう何とかできなかったのだろうか。

やることがあるのはごく一部で、他はぼんやりと一日を過ごすしかなかった、とも言っていた。精神の安定や喪失の回復にはつくずく仕事があることが必要なのだと思った。