『台湾法の歴史と思想』後藤武秀
法制史研究者による日本時代から戦後民主化までの台湾立法変遷に関する論文集。台湾の近現代史を立法の観点から読み取ることができる。
韓石泉や呉濁流など近代の台湾の小説には必ず相続及び遺産分配の問題がある。たいてい家族争議に発展するこうした相続問題は日本人には台湾の風習・習慣・文化への前提知識がないので理解しがたいことが多い。
しかし、本書ではこうした問題で係争となった判例が数多く引用されている。明治時代からの法律文章が多く読み易いとはいい難いが、台湾史に興味のある者ならば時間をかけて読み取るのも楽しい。
他にもアヘン吸引の許可制、多重婚姻制度、祖先祭祀と土地所有など、固有の風習を台湾行政府がその背景に配慮しつつ法律を制定しており、また多くの判例を残している。法律という味気ない文章からこうした当時の文化・習慣の有り様が抽出されることには驚くばかりである。