所蔵作品展「近代日本の美術」@東京国立近代美術館
常設展だけでも満足できる美術館はあまりないが、ここはそのひとつ。企画展も素晴らしいがそれがなくても定期的に訪れてゆっくりしたいところ。
展示替えの度に小出しに出てくる戦争画は今回は、鈴木誠「皇土防衛の軍民防空陣」と宮本三郎「海軍落下傘部隊メナド奇襲」の2点だった。
鈴木の火事場情景はどの人物も真剣ながら緊迫感のない表情で、彼の戦争協力への矜持がうかがえる。
宮本の大作では、地上でくんずほぐれつの戦闘が行われているが、青空に点々と落下傘が浮かび、どことなく爽快感がある。日本の洋画家が戦争という素材によってどんな空気を描いたのかが分かって面白い。
村山槐多の「バラと少女」と「コスチュームの娘」があった。ハイコントラストの木炭スケッチと油絵はどちらも目元のすっきりとした美少女。夭折の青年画家の淡い恋心が筆使いに浮かび上がる。
破滅的な天才画家長谷川利行がまとまって見られた。たしかに粗いが速そうだ。
彼のように知られることなく生涯を終えた作家を発掘し、正統に評価するのが国立の美術館の重要な仕事だと思うが、ここはそれをきちんとやっている。
ひるがえって近頃よくある収蔵をしない美術館というのはどうなんだろうとつくづく思う。
3階ではこの他に、松本竣介「Y市の橋」と中村宏「円環列車・B」に再会できた。
あと、ちょっと分かりにくい空間に菅木志雄「景留斜継」があった。皇居を望む明るい部屋で心が晴れるような造形によく似合っていた。
いつも楽しみにしているのが2階の抽象の部屋。東近美で5分しか時間がないとしたら絶対この部屋に行くね。
今回はゲハルト・リヒター「抽象絵画(赤)」、中西夏之「紫・むらさきXVII」、李禹煥(リ・ウーファン)「風と共に」がドカン!と並んでいて、視覚の快楽でした。
リヒターの奥行きのある赤、中西のゆるゆるとした流動、李のくいとめるくさび。これを並べた人はえらい。アートを鑑賞する歓びを分かっている!
あと、2階には河原温のコンセプトアート「I WENT」「I MET」もあった。