雨引の里と彫刻2011―冬のさなかに@茨城県桜川市
茨城の農村地域で行われる作家主導の野外彫刻展。この帰りに大地震に遭って家に帰れなくなったのだけど、その話は別途。
1996年から始めてもう10回目になるとのこと。冬にやるのは初めてとのことらしいが、雑草も低く、冬の光がくっきりとしていてストレートな立体表現によく合っていた。
東京から宇都宮線と水戸線を乗り継いで、岩瀬駅からさらにタクシーでインフォメーションセンターへ。そこで自転車を借りて全行程17キロを2.5時間。お天気も良く、風も少なくて爽快なアート巡りだった。
当地は農業と石材工業の町らしい。刈り入れも終わった冬の畑の一角につややかな石肌の彫刻が置かれていたり、集落の木立をわけいった場所にスチールのオブジェが置かれていたりと楽しめる。
國安孝昌の「雨引く里の田守る竜神」
國安孝昌の「雨引く里の田守る竜神」
普段なら自動車で通り過ぎるだけの場所に過ぎないこの土地に入り込む。そして、県道から一本入った道に入り込み、路地をわけいり、民家の裏の空き地を探してさまよう。
大地の芸術祭もそうだったけど、そんな体験をさせてくれるのがこうした大規模屋外美術展。
開けた場所に置かれた國安孝昌の「雨引く里の田守る竜神」は、燕山と加波山の雄大な景色を背景にのびのびと異形のオーラを放っていた。
一方で私有地として人の立ち入れない林の奥に設置された大槻孝之の「重力の森」と佐藤比南子の「Tension.風を包む」は、作品が土地に認められ、場所に護られている感覚を漂わせている。
「Tension.風を包む」のネットが微風にかすかに揺れているのを見ていると、何種類もの鳥の声がくっきりと聞こえてくる。逆に自動車の音、子どもの歓声は、はるか遠くから木々のフィルターを通っているのでかすかになっている。場所と作品のコラボレーションを最も楽しんだひとときだった。
大槻孝之「重力の森」
大槻孝之「重力の森」
高梨裕理の「深い水」は石材工場の廃材置き場を儀式めいた場所に転換した雰囲気のある作品。
菅原隆彦の「Vortex Form ‘2011」は鋼材を巻いたオブジェで、民家の庭先に置かれて存在感が増している。
山崎隆の「低い冬」は桜並木の土手の上にあり、斜面を登って行くと異形なオブジェが見えてくるという趣向。作品のくぼみに残った水が氷を残していて、それがかえって春の華やぎを予感させる。
海崎三郎の「雨引」は地名の由来となった雨乞いの祈りを金属の直線によって表現している。鉄枠をのぞきこむと井戸のように水が溜まっていた。
村井進吾の「黒体1101」は開けた土地にシンプルな方形を設置しただけのようだが、表面には微細なパターンが穿たれており、形態と感触という立体作品を見る歓びがある。
海崎三郎「雨引」
海崎三郎「雨引」
西成田洋子の「記憶の領域2011-F00」はかつて地域の中心として賑わったであろう商店跡の軒先で人を威圧するように異形をさらしている。子どもが夜中に迷い込んだら間違いなく夢をみるだろう。
それにしてもこの商店の雰囲気のあること。立派な瓦屋根に、井戸があり、池があり、お地蔵様があり、タバコのポスターがありで、このまま朽ちさせておくのはもったいない。
作家主導の大規模展示会と言えば所沢ビエンナーレを思い出すが、これと同じく凛とした雰囲気のある展示会だった。
その日の午後に発生した地震で作品の一部が損傷したらしい。もとから観光バスが次々とやってくるような多くの来場者を集める展示会ではないらしいので、そのまま継続してほしいものだ。