『増補版 図説 台湾の歴史』周婉窈

『増補版 図説 台湾の歴史』周婉窈

台湾の歴史研究者による台湾史解説書。若林正丈先生の台湾史講義でも推薦されていた一冊。台湾人によるものだけあってエピソードによっては情感たっぷりの記述があり、そこがまた胸を打つ名著。

私が特に興味深かったのは清朝時代の漢人による大量入植時期を記した第6章「漢人と先住民の関係」。台湾人の原住民族に対するアンビバレントな感情の底に横たわるものはこの時代がそのルーツかと感じた。

また、日本統治時代の台湾人による民主化運動を描いた第10章「知識人の反植民地運動」。台湾国民として民主化を求めた初の試みであるとして胸を張る姿が読んでいて快い。しかし、後年それを弾圧したのは日本人であることも忘れてはならない。

その他、日本への台湾割譲から遡って1860年からの40年間に台湾に起きたこと。それが台湾国民意識の形成に大きな影響を及ぼしたということ(p 92)。白色テロ時代にまったく恐怖を感じたことのなかった層が存在するという指摘(p 230)。今日の台湾には内部分裂と先鋭化するアイデンティティとエスニシティがあり、これが台湾社会不安定化の原因になっているとする指摘(p 250)が興味深かった。

また、サヨンの鐘を歌ったタイヤル族の佐塚佐和子について、インドネシア・モロタイ島で1975年に見つかった原住民日本軍兵士スニョン(中村輝夫・李光輝)のその後など、私の知らなかったこともいくつかあった。

話は変わるが、本書でもそうだが個人名に日本語読みのふりがなをつけることを台湾人や中国人はどう思っているのだろう。頼清徳(らいせいとく)ではなく(ライチントー)とふりがなをつけ、そのように発音すべきではないだろうか。こうした研究書でも中国人名のふりがなについてはそうなっている。校正ガイドブックではどうなっているのか、いつもそれを疑問に思う。

若林先生の講義で台湾原住民の墓誌の画像を見た。故人の名前がカタカナ、漢字、ローマ字で書かれていた。このように個人名や固有名詞の表記や発音には複雑な背景があるのだからメディアはもっと配慮が必要ではないかと思う。