『都市と都市』チャイナ・ミエヴィル
架空の都市「ベジェル」を舞台にした警察小説。本書の主役はこの一風変わった都市である。ベジェルはおそらくバルカン半島の黒海側のどこかにあり、地理的に重なって「ウル・コーマ」という別の都市がある。
ふたつの都市は言語も文化もそれぞれであり、市民はお互いに相手を存在しないものとして暮らしている。相手地区の建物や自動車、人々が近くにいても心理的な感覚ブロックが働いて無意識に避けながら生活している。
しかし、それでもそれぞれの心理的ブロックを侵害してしまうことがある。あるいは意図的に侵害する者が稀に現れる。その場合はそうした禁忌を罰するための超法規的機関「ブリーチ」が発動される。
こうした街で殺人事件が発生する。そしてその事件はどうやら「ベジェル」と「ウル・コーマ」ふたつの都市にまたがって発生したらしく、同時に「ブリーチ」案件でもあるらしい。
そして、ベジェル警察の刑事ボルルがこの事件の捜査をすすめていくと、第3の都市「オルツィニー」の存在が浮かび上がるというストーリー。
その状況設定だけでワクワクする。読んでいてこの都市構造を表す造語「トータル」「クロスハッチ」「総体局所的(グロストピック)」が頻出するので目眩がする。
また、ひとつの都市から総体局所的な別の街へ国境を超えると以前の街が見えなくなる(心理的にブロックされる)というギミックも幻惑的で楽しい。
こうした読書体験そのものが楽しい小説は久しぶりである。結末がチープという声もあるがこれは読むことそのものがこんなに楽しいのである。これ以上小説というものに何を求めるのだろう。読者の中には読むことよりもストーリーを追いたいだけの者もいるということか。残念なことである。
ちなみに本書はBBC制作でドラマ化されている。ストーリーは若干違うがこの幻惑的な都市がしっかりと映像化されており、製作者がこの小説のことをよく「分かっている」のがうかがえる。こちらもお勧めである。