『六つの航跡』ムア・ラファティ

クローン技術が一般化したはるかな未来。別の恒星へ植民船が旅立つ。その宇宙船の6人の乗務員が目覚めたときに見たのは自分たちの死体だった。という魅力的な設定が気になって読んでみたSF小説。

この世界ではクローンは肉体の生成技術と、マインドマップと呼ばれる記憶・意識のデータ技術によって成り立つ。この技術はあまりにも手軽なので個人の死が気軽に発生する。

しかし、肉体は生成されてもマインドマップは直近のバックアップからインストールされるためバックアップから死までの時間、つまりどうやって死んだのか、殺されたのかの記憶が次のクローンには受け継がれない。

この恒星船の乗務員の場合、自分たちの死体を目前にしてどうやって自分たちが殺されたのか、その謎解きをしていくというストーリーである。SFとしてもミステリーとしてもよく考えられており、読んでいて十分楽しめた。

しかし、どうしても納得行かないのがクローン技術によって何度も生き返り、いろんな人生を経験し、数百年もの時間を過ごした人間の意識が相変わらずこんなに単純でいいのかという点である。暴力を恐れる素朴なハッカー、冷酷な殺し屋、マッチョな偉丈夫などなど何れも性格に深みを欠くキャラクターばかりである。

近年のSF小説にはあまりにも変わらない人物像が多いように思う。「太陽の簒奪者」「一億年のテレスコープ」の研究者など。私は長命族ならではの智慧と全能感、それに対してある喪失感と疎外感、そして倦怠感を軽妙に描いたハインラインの「愛に時間を」をもう一度読みたくなった。