映画『関心領域』
アウシュビッツ強制収容所に隣接した邸宅は収容所の司令官とその家族の住居だった。この映画はホロコーストの残酷・悲惨さを直接映像にすることなく、その邸宅に住む家族の日常を淡々と描くことでそれを浮き上がらせようとした試みだと思う。
また、撮影方法は建物内の壁面など多地点にカメラを設置し自然光で撮影、俳優が自然に建物内を歩いている姿を映像にするという特殊なものだったらしい。
それらの意図や技法がこの映画が本来のテーマであるホロコーストの残酷・悲惨さを表現するのに貢献しているのかと言えばそうは言えない。特殊な撮影技法によるスタイリッシュな映像の一方で俳優の演出はごく一般的なファミリードラマである。それは落ち着いていて結局陳腐であった。
端的に言えばこれは組織の一員である男とその平凡な家族の日常に、時折不穏な音声が漏れ聞こえるという、それだけの映画に過ぎなかった。