『韓石泉回想録: 医師のみた台湾近現代史』韓石泉

『韓石泉回想録: 医師のみた台湾近現代史』韓石泉

某大学のエクステンションコースで台湾の歴史をテーマとした連続講座があり、そこで紹介された一冊。日本ではあまり知られていない台湾人医師であり活動家でもある韓石泉の自伝である。日本統治時代から戦中、戦後にかけての台湾知識人の精神史、生活史が綿密に描かれており興味深い。

しかし、最も興味深かったのは本人の文章よりも彼の書きぶりを通じた「言っていいこと」「曖昧にするべきこと」を読み取る研究者の視点がうかがえたこと。

日本統治時代に青年期を過ごし民主化運動に大いに参加したこと。戦後、国民党時代に台湾人として精一杯の自由化を求めた政治活動を行ったこと。洪郁如による本書の解説にはそれぞれの時代、状況によって物事の書きぶりが変わっていることが指摘されている。

また、本書の特徴は韓石泉本人の文章の半分近くにもなる量の注釈があること。注釈は韓石泉の四男である韓良俊によるものである。この「本文と注釈の往来」は旧世代とその後の世代による社会解釈の違いを浮き上がらせるものになっている。

日本による植民統治から国民党の白色テロ。本書ではこうした時代を経た台湾人の精神史の複雑さを読み取ることができる。