『美は傷』エカ・クルニアワン

『美は傷』エカ・クルニアワン

インドネシア人作家によるエスニックファンタジー、マジックリアリズムの手法で描いた小説である。

オランダ統治時代のインドネシアにオランダ人とインドネシア人の間に生まれ、オランダ人家庭で育った美少女、デウィ・アユ。やがて彼女は戦乱と社会の混乱の中で娼婦として生きることになり、4人の娘もそれぞれの不幸な人生を生きる。

といっても暗い話ではなく彼女たちはジョークと肯定的な人生観でたんたんと生きていく。しかし、私は登場人物に共感も嫌悪も抱くことができず、ただ長いだけの小説であった。

デウィ・アユもその3人の娘も目もくらむほど美しく、その美女を獲得するための男たちのあくせくする様子も微笑ましい。また、時代はオランダ統治時代から日本軍による占領、その後のスハルトによる独裁政権による共産主義者の虐殺と、小説の舞台としてはこのうえない。

しかし、何故かこの小説には国民的な傷跡が浮かび上がってこない。読んでいてこんなにサラッとしていいのかと何度も思った。それがインドネシア国民の精神的性質なのかもしれないが私にはどうにも合わない。

ガルシア・マルケスは「百年の孤独」を土地の神に書かされているのではと感じさせた。国内では大江健三郎、中上健次は自分の生まれた土地に対する憎しみと神聖視が混沌と渦巻いていた。「同時代ゲーム」の四国の森、「千年の愉楽」の熊野の路地…。

ところでこの小説にあるデウィ・アユやその娘たちが美女であることの理由として欧米人(オランダ人)の血が混じっている事とある。現代の小説でそのことに無批判であっていいのだろうか。それも気になった。