映画『日泰食堂』

映画『日泰食堂』

香港から船で30分ほどの離島、長洲。その島から見た香港の自由化運動とコロナ禍についてのドキュメンタリー。こうした市井の市民から見た激動する社会というのはそれだけで心にしみる。

かつて漁師でいまは長洲のイカ焼き食堂の高齢者、そこでアルバイトする若者たち。世代にこだわりなくビールを飲んでトランプに興じる彼らだがときには社会問題を巡って対立することもある。若者はスマホを片時も手放すこともないイマドキの様子だし、年寄りは「昔はこうだった」と威勢の良いことばかり言う。しかし、それでも互いを大事にし、そのコミュニティをいつでも戻って来ることができる場所としている。

こうした、もはや日本では寅さん映画でしか見ることができない様子が、あちらでは毎日の生活である。映像を見てそのことがなんだか泣けた。

しかし、自由化を求めるデモの映像を見て、その後の香港社会の動きを思い出しながらこの映画の登場人物が話す言葉にふと心配になる。この映像によって彼女が不利な立場にならないように祈るばかりである。あるいはこの映画が各国で上映されていることは香港にまだ言論の自由があることの証と捉えるべきなのだろうか。

本作品は市民の日常と激動する社会を並行して描いた優れたドキュメンタリー映画である。監督は日泰食堂にたむろしていたその若者のひとりであるということで、これはコミュニティを内側から描いた「家族ドキュメンタリー」のひとつかもしれない。そうした監督に2作目が優れていた例を私は知らないが、ぜひともまた映画を撮ってほしい。