「死ぬ時はひとりぼっち」レイ・ブラッドベリ
ブラッドベリの1985年の長編。主人公は売れない小説家。雨の夜、ヴェニスビーチ行きの路面電車で後ろに座った男に「死ぬときはひとりぼっち(”Death is a lonely business.”)」と囁かれるところから始まる探偵小説。
それだけでファンならぞくぞくするのだが、期待を裏切らないノスタルジーと夜のイメージの奔流に心地よく流されていく小説体験。
時代は戦争が終わってしばらく、1949年頃。その頃のヴェニスビーチはリゾート開発が失敗に終わって沈滞していたらしい。しかも、ブラッドベリはそこを、年の3分の1が雨と霧と霞に包まれる街にしてしまった。あとはそこに漂う人々、忘れられた人々を描写していくだけでいい。
ヴェニスは私も80年代によく通った。意味不明の水路や荒れ果てたピアにかつての高級住宅が点在している妙な街だった。ただ明るいだけのサンタモニカとは違って貧乏な異国人にはそこがしっくりとした。
久しぶりにブラッドベリの言葉の宝石箱を堪能した。原文でも読みたくなった。