『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』ルシア・ベルリン

『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』ルシア・ベルリン

ルシアは1936年生まれ2004年死去の20センチュリーウーマン

少女時代はアラスカや米中西部で貧しい生活を送り、女学生時代は脊柱障害でギブス装着の毎日を余儀なくされる。その後一転して南米チリでの豪奢な生活をおくる。

しかし、帰国後2回結婚し、2度めの夫と離婚してからはシングルマザーとして4人の子どもを育てることに。その間、家政婦、電話交換手、看護婦、高校教師などの職業に就く一方で、自身もアルコール中毒に苦しめられた。

本書はルシアのそれぞれの時期に素材をとった短編小説集である。

この小説群には事実ではない部分が多くあることを承知しつつではあるが、この時代の米国女性の多様な人生に驚く。

父に認められた娘としての幸福な少女時代。アルコールと虐待に明け暮れる母との関係。貧困の次には裕福な生活、その次にはまた貧困生活と数年おきに入れ替わる人生。幸福な結婚生活にもドラッグが影を落とし、自らもアルコール中毒によってせっかく得たまともな職を危険にさらす。

おそらくこうした人生を送った同時代の女性はルシアひとりではなかったのだろう。本書はこの時代の女性の人生の語り聞きとして興味深い一冊だった。

しかし、小説としては軽やかなニューヨーカー風エッセイの粋を出ない。その都度思い出した事を思いのままに言葉にしただけである。小説が傑作と呼ばれ、永遠性や普遍性を得るためには作家の持続性と忍耐、根気が必要なのだと思う。